二章

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俺の家は坂道の上の方にあり、彼女の家は坂道の一番下、曲がり角の所にある。 歩いて2分もかからない距離だが、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。 「そういえばね、」 白い吐息が空中に溶け込んでいく。 少し前を歩く彼女が、思い出したように言った。 「この前、バレーボール部の子に告白されたの」 ……知ってる。だって俺、その告白現場にいたし。 もちろん、わざと見たわけではない。 掃除の際に行くはずだったゴミ捨てを忘れていたので、放課後に捨てに行った時、たまたまその現場に出くわしたのだった。 「そうなんだ」 ピタ、と立ち止まり、彼女は体をこちらに向ける。 「驚かないの?」 「驚いて、欲しかったの?」 「うん」 うん、って……。 「話したことほとんどなかったから断ったけど、諦めないって言われちゃった」 「カレシ、いるから断ったんじゃないの」 聞くなら、今しかない、と思った。 心臓が、ドキドキと激しく脈打つ。 「しぃちゃんから、聞いたの?」 「……」 俺が黙っていると、彼女は背を向け、再び歩き始めた。 俺も彼女の後を追い、足を動かす。 「彼氏、いないよ」 後ろで手を組んだ彼女が、ぽつりとそう言った。 「え……」 今度は俺が足を止める。 「私、彼氏できたことないよ」 彼女は振り向いて言った。 「陽ちゃんがいれば、それでいいもん」 へら、と笑って、前を向く。
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