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学校に近づくにつれ、制服を着た学生の姿が増えていく。
2車線の道路を二人で一列になって走っていると、まだシャッターが半分下りたままのパン屋から見慣れた学生が出てきた。
「よっ」
俺と同じ紺色のネクタイをしているはずだが、その首元にはネクタイが見当たらない。
あれ、さっきも似たような光景が。
「ネクタイ」
「あ」
慌てて店に引っ込んで行った理央を見て、自転車を止めた彼女はくすくすと笑った。
「理央くん、前髪はねてたね」
「自分もはねてるよ」
「えっ。うそ、どこ?」
彼女ーー綾瀬 小夜子は、頭を触ってどこがはねているのか一生懸命確認している。
「うそだよ」
「焦るからやめて」
「うんごめん、やめない」
「何をやめないって?」
ネクタイを締めながら会話に入ってきたのは、俺と同じ2年生の谷田貝理央。
店の脇に止めてあった黒色の自転車に跨がり、彼女の横にいく。
「理央くんおはよう」
「はよっす!」
理央は元気良く挨拶をして、彼女に笑顔を向けた。
俺が自転車を走らせれば、二人も後をついてくる。
「で、何を痴話喧嘩してたんスか?」
理央のからかう声。
何が痴話喧嘩だ。
「違うよ、喧嘩じゃなくて、陽ちゃんがうそついたの」
否定する所はそこか。心の中で彼女にツッコミを入れる。
「どんなうそっすか?」
「髪の毛はねてるって」
「しょーもなっ」
「あ、理央くん前髪はねてるよ」
え、マジ、どこだーと言いながら楽しげに笑う理央の声を聞いて、俺は少しだけよろしくない気持ちを抱く。
赤信号で止まれば、俺を挟むようにして二人も横に並んだ。
「あれ、陽ちゃん機嫌悪い?」
俺の顔を覗き込んだ彼女の顔が幼く見えて、少しどきりとした。
「別に」
「うそ、機嫌悪いぞ。寒いから?」
「小夜子センパイ、違うっすよ。こいつ、自分だけ話に入れないからいじけてるんスよ」
……いじけてないし。話に入らないのはいつものことだし。
口に出して否定しても受け入れてもらえないので、敢えて俺は何も言わないでおく。
「あはは、陽ちゃんもまだ子どもだね」
「一個しか年変わらないだろ」
「センパイには敬語を使えー」
「ちょっとはセンパイらしくなったらね」
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