一章

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隣に立つ理央は、上履きを履きながら俺に礼を述べた。 「大したことしてないし」 「いや、マジで助かった!」 「俺が言わなくても、お前態度に出てるし」 「マジ? やっべ、バレてるかなぁ」 上履きを履き終えた理央と階段を上る。途中、友人と歩く彼女が俺達に手を振ると、理央は嬉しそうに振り返していた。 「気づいてないと思うよ。あの人、鈍感だし」 天然だし。 「そうだと良いけどなぁ。……ん、いや待てよ、気づいてもらえた方がいいのか?」 頭を抱える友人がなんだか微笑ましく思えて、俺は笑った。 「青春」 「そうだ、俺は青春時代を生きてるんだ。いっそのこと告ってもっと素敵な青春時代にしようかしら」 「オカマになってるよ」 「や、焦って告ってフラれたら暗黒の青春になっちまうもんな。あーー、小夜子センパイ好きな人いるのかな」 3階に辿り着き、一番奥にある2ーAのクラスを目指す。 廊下の窓からは、稲刈りの終わって物寂しい田んぼが見下ろせる。 「なー太陽、お前なんか知らねーの?」 彼女の後ろ姿と、はにかむ3年の先輩の顔がふいに浮かんだ。 「……知らないな」 「今の間はなんだよ、おい」 「長谷川オハーー!あ、理央もオハ」 クラスメイトのヨシモトが通りすがりに理央の頭を叩いていく。 「なんだよ、俺を太陽のついでみたいな扱いしやがって」 ヨシモトのおかげで話がそれたので、正直俺はホッとした。 理央は案外打たれ弱いから、彼女が先輩に告白されたことは言わない方が彼のためになるだろう。 しかもその先輩、理央の部活の先輩だし。 教室に入れば、何人かのクラスメイトが挨拶をしてくれたので俺も挨拶を返し自分の席へ着く。 後ろから2番目の窓際にあるこの席からは、広いグラウンドが見渡せる。 窓の外に目を移せば、グラウンドでサッカー部が朝練をしているのが見えた。 あの日のことを思い出しそうになり、慌てて窓から目を離す。 「長谷川くん」 肩を軽く叩かれる。振り返ると、級長の長澤がノートとシャーペンを持って立っていた。 「なに?」 「英語で、どうしても分からない所があって」 ……。 なんで、俺?
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