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疑問を抱いて長澤の顔を見上げるが、にっこり笑顔を返されただけだった。
……ま、いいか。
英語はどちらかといえば苦手な教科なので、俺は正直に長澤に伝える。
「答えられるか自信ないけど」
「長谷川くんなら大丈夫」
「……」
一体何を根拠にそんなこと言えるんだろうか。
そんなことを思いつつ、長澤が広げたノートに目を通し、彼女の疑問点に答える。
「後ろの文の時制が過去形だから、if節は過去完了になるんじゃないかな」
どうかな、と言う意味を込めて、俺と一緒にノートを覗き込んでいた長澤に目をやった。
「……あ、そっか。過去形のもう一個前の時制は、過去完了だもんね」
説明が上手く伝わったか不安だった俺は、長澤の言葉を聞き胸を撫で下ろした。
「昨日習ったばかりなのに、もう忘れちゃってた。教えてくれてありがとう、長谷川くん」
キレイな顔で微笑む長澤は、まるで女優のように見えた。
「ん」
ノートとペンケースを持った長澤を見て、てっきり席に戻ると思っていた俺は、そのまま隣の席に座った彼女の行動を理解できなかった。
「ね、長谷川くん。質問してもいい?」
「まだ分からないところあった?」
「そうじゃなくて。長谷川くんって……好きな人、いるの?」
「……」
突然の質問に黙りこくっていると、緩く弧を描いた長澤の口が開いた。
「ね、当ててみせようか」
「……なんで長澤が知ってんの」
俺がそう言えば、長澤はいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。
「やっぱり、好きな人いるんだ」
長澤の目を見る。
……はめられた。
「私、誰か知ってるよ」
長澤の誘導尋問に引っかからないよう、俺は慎重に話す。
「いるなんて言ってないけど」
「ウソ、いるでしょ」
「いないよ」
「いる。……私、いつも長谷川くんのこと見てるから、分かるもん」
……俺は、何を言えばいいのだろう。何を言っても長澤に勝てる気がしない。
「欲しいものは欲しいって、ちゃんと言わないとだめだよ」
自分の席に戻っていく長澤の後ろ姿を見て、俺はオンナという生物への警戒心を強めることを心に決めた。
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