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おじさんが言うには、世界が滅びた理由はジンコウのバクハツなのだそうだ。
部屋は薄暗く埃に満ちていた。壁の本棚はおびただしい数の書物で埋め尽くされている。本棚に収まりきらない書物が床のあちこちにも無雑作に積まれている。机の上にも数え切れない数の書物が積み上げられている。
机の前の椅子に腰掛けたおじさんは、開いた本から目を離さずに話し続けていた。
「高収穫性の穀物の導入がきっかけとなったのだ。食糧事情が解決することで人々は無益な争いから解放され、世界は平和を獲得した」
少年はおとなしく椅子に腰掛け、いつものようにおじさんの話を聞いていた。
「それ以前の世紀に伝染病は解決していた。医学と栄養学の進歩によって人類の寿命は飛躍的に延びていた。そういう下地があった上で、食料の心配も争いもなくなった世界で、一気に人口が爆発した」
「ジンコウ? バクハツ?」
痩せて血色の悪い少年は首をかしげた。その言葉はおじさんから何度か聞いている。けれど、少年にはどうしてもよくわからなかった。いや、本当のことを言うとおじさんの言っていることのほとんどが少年にはわからない。
少年は退屈していた。
おじさんは顔をあげ、少年がそこにいたことにたった今気が付いたかのような表情を見せた。
「そうだ、世界の人口が爆発した。つまり……、そうだ、急激に増えた、ということだ。それも耕作地の拡大を伴わずに、だ。居住可能な地域が確保されていたのは重要だ」
やっぱりおじさんの言ってることはわからない。
窓からは時を告げる赤い光がさしこんでいた。光は宮殿の尖塔からやってくる。部屋の中の埃が照らし出され、キラキラと輝いていた。
少年は食事のことを考えていた。だいぶ前におじさんがどこかから持ってきたアレは美味しかった。また、あの、細長い食べ物を見つけてきてくれないだろうか。あんな食べ物があるだなんて。配給所のパンと肉としょっぱいだけのスープの素、それ以外の食べ物なんて、それまで考えてみたこともなかった。
おじさんの言う滅亡した世界ではあんな美味しいものをいつでも食べられたのだろうか。
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