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少年は、ついさっきまで、いつものスープなんか飲みたくないと思っていたことを思い出した。あんなスープなんて、そう思いながらも、匂いが漂ってくると、美味しそうに思えてくる。飲みたくなってくる。
おじさんから自分の分のカップを受け取った少年は、両手で抱えるようにして、本棚のある部屋のテーブルに慎重に運んだ。
おじさんは床に無造作に置かれた袋からパンと袋に入った肉を取り出し、テーブルに置いた。スープを一口飲み、袋を開ける。中身の肉を平たい皿に載せた。パンにかじりつき、フォークで肉を口に運んだ。
「この前のあれがおいしかった」
少年が言っているあれとは、おじさんがどこかから持って来たスープのことだった。少年はこの食事に飽き飽きしていた。おじさんが変わった食べ物を持ってきたことは何度かしかない。その何度かのどれも少年にはたまらなく美味しく感じられた。少年だけでなく、おじさんもこの食事には飽きているはずだ。そうでなければどこかから何かを持ってくることなどあるはずがない。
それにしても、と少年は思う。おじさんは一体どこから食べ物を見つけてくるのだろうか。
簡素な食事はあっという間に終わる。皿を片付けるのは少年の仕事だった。
キッチンで食器を洗う少年の背中から、おじさんがまた声に出して本を読んでいるのが聞こえた。世界の終わりと失われた食べ物たち。滅亡した世界にはどんな食べものがあったのだろうか。そんなことを考えているのは楽しい。滅亡した世界では誰もが美味しいものを食べていたのだろうか。
でも、滅亡した世界には一体誰がいたというのだろう。
山羊女の宮殿で鳴る夜を告げる鐘の音が世界の丸い天井に反響していた。明日は配給所に行って食料を持ってこないと、少年はふと、その食料はどこから来ているのか、考えてみた。いつかおじさんに聞いてみよう。聞きたいことは溜まっている。おじさんは教えてくれるだろうか。それとも教えてくれないのだろうか。そう思うと、なぜか悲しくなる。いつか、教えてもらおう。
鐘の音が徐々に消えていく。それに連れて、丸天井に跳ね返る明かりが落とされていく。
居住区は夜を迎えようとしていた。
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