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7月6日。
やけに暑苦しい校舎を、汗水垂らしながら徘徊する。
日直であるが故に本日の提出物を職員室に届けていたからだ。
これから帰ってもやる事がない。部活動に入ってるわけでもないし、友達だっていないわけだから、行き場がない。
暇だ。暑すぎて動く気も起きないし、どうしよう。
「おっ、音無君じゃん。何してんの?」
暑さに耐えかねて廊下に設置された自販機まで歩いて行ったら意外な人物に出会った。
佐倉 宮子、それが彼女の名前だ。
地毛が茶髪でウルフカットで、身長が高いわりに童顔。そして何故か目が死んでいる。
夏であるにも関わらず毎日履いている黒タイツには一種のロマンを感じる、俺と同じ中学出身の生徒だ。
「……そう言うお前こそ何をしているんだ? 部活か?」
「あははは、いやいや違うよ。ちょっとね」
「?」
彼女は曖昧な表情で笑い、そのまま向かいの教室に入っていった。その教室は音楽室、彼女は音楽室に用があるようだ。
「あ、そうだ。今暇でしょ? 音無君」
「え?」
佐倉がこっちに来るよう手招きするので音楽室に入り扉を閉める。佐倉は音楽室の備品であるピアノの前に腰掛けている。
俺は、黒板の前にある段差に腰掛けて佐倉を正面で見えるポジションを取る。
「お前、ピアノ弾けるのか」
「少しだけね」
彼女はそう言うと、おもむろに曲を弾き始める。
どこかで聴いたような音色だ、俺は初心者だからあいにくピアノの事なんか分からないが、初心者の俺が聴く分には十分心地良い演奏だと思う。
2分か3分か経って、彼女は演奏を止め俺の方を向く。
「どうだった?」
「えっ。えーと……綺麗だった?」
「ぶっちゃけどうだったよ? なんか雑だなーとか思わなかった?」
「い、いや? ただ、俺は初心者というかピアノの事何もわからないからアレだけど、なんとなく心こもってるなーというか……。なんて言うんだろう」
「…………ふーん」
「な、なんだよ」
「あはははっ、心なんかこめてないよ。というかこめれないよ、私なんかに」
「こめれない? それはまたどうして」
「べっつにぃー。ただ、まだまだ私はダメダメだって事さ」
佐倉はそう言って立ち上がり、俺の下まで歩み寄ると隣の段差に腰掛ける。
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