第1章

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 隣に座る佐倉は、ガラスのような目をこちらに向ける。 「音無君、最近変わったよね」 「変わった? 俺が?」 「うんうん。なんて言うか、西尾さんと話すようになって表情が露わになる場面が出来たというか」 「俺あいつ大好きだからな」 「そなの?」 「……反応薄いな、嘘だよ」 「あはは、案外素の音無君はノリが良いと見た」  佐倉はカラカラと笑う。  以前から疑問に思ってたのだが、この女はどこか変だ。  いや、変というかぎこちないというのだろうか。会話する時、目で相手を見てるはずなのに、認識はしていても意識は向いてないというか、目で見ても見ていないというか。  なんといったらいいのか分からないけど、彼女は積極的に会話をしようとする反面、相手の事個人を意識していないように思えるのだ。  俺みたいに童顔をこじらせると、女子限定で気持ち悪いくらい優秀な観察眼を得るのだ。 「変わったといえばお前の方が変わっているだろ。たしか中学時代のお前は何かあったらすぐ泣く泣き虫だったじゃないか。コミュニケーションを取ろうとしない俺以上に厄介がられてて、病気で学校に来られなかった奴にプリントやらなんやら届ける係も押し付けられてただろ。最近のお前は怒りや悲しみといった表情が無いというか、いつも無表情かヘラヘラしてるかのどっちかじゃないか」 「おっ、結構マシンガントークの才能あるんじゃない? 畳み掛けるねぇ」  佐倉はヘラヘラと笑いながら言う。 「うーん、でもそうだねぇ。最近は笑ってばっかりかもね? あははは」 「変なタイミングで笑うなよ、何が面白いんだ。なんか狂気孕んでて怖いぞ」 「ま、色々あるんだよ。私は大切な友達を作って、有名なピアニストになって、代わりになるんだ」 「代わり?」 「そこに引っかからないでよ。あれだよ、中二病ってやつだから気にしないで」  佐倉はあははと笑う。  何が面白いんだろう、何か面白い事をしてるわけでもないのに、何でこの女は常に気持ち悪いくらい自然な作り笑いをするのだろう? 「佐倉……お前」 「どしたの? 人の顔をジッと見て」 「……汗っかきなのか? 制服透けて下着見えてるぞ」 「うん。ずっと私の顔だけ見てて」 「いやそうじゃねえだろ! ここ冷房あるだろ……」 「なるほど、つけてくるよ」 「おう」  ……帰らないのか?
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