一花三季

2/3
286人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
今年もまた、この町が桜色に染まる時期を迎えた。 桜吹雪。それは楽しげに踊る蝶のように、私達の周りを花びらが舞う。 その満開の桜を見上げた。 『当季の花』その言葉が浮かぶ。 花には3つの季節があると言う、“一花三季”という言葉。 咲き始めたばかりの「初花」 今を盛りとばかりに誇らしげに咲き誇る「当季の花」 見頃の終わりを切なげに迎える「名残の花」 どの時季も同じ、ひとつの花の姿であるけれど、どの季節の花を好むかは人それぞれ。多くの人々は「当季の花」の時季を好むのかもしれない。 誰だって、綺麗なものに惹かれる。誰だって、魅力あるものに惹かれる。 同じ花であるのに、移りゆく私たちの視線が変わっていくから、「名残の花」の時季の頃には、目も留まらなくなるのかな。 大地に芽吹き、長い時間をかけてようやく咲きを迎えるのに。盛んに咲く花達の一生があまりに短く切なかった。 でも、今は少し考え方が変わった。 藍生くんと出会い、本気で好きになった。 彼の幸せを願い、最後に別れたあの駅で、私に振り返ることなく去って行った藍生くんの背中は、涙で霞んだ。 好きになる気持ちがこんなにも苦しくて、痛いのならば、身も心も朽ち果ててしまえばいいのに、とずっと思ってきた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!