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今年もまた、この町が桜色に染まる時期を迎えた。
桜吹雪。それは楽しげに踊る蝶のように、私達の周りを花びらが舞う。
その満開の桜を見上げた。
『当季の花』その言葉が浮かぶ。
花には3つの季節があると言う、“一花三季”という言葉。
咲き始めたばかりの「初花」
今を盛りとばかりに誇らしげに咲き誇る「当季の花」
見頃の終わりを切なげに迎える「名残の花」
どの時季も同じ、ひとつの花の姿であるけれど、どの季節の花を好むかは人それぞれ。多くの人々は「当季の花」の時季を好むのかもしれない。
誰だって、綺麗なものに惹かれる。誰だって、魅力あるものに惹かれる。
同じ花であるのに、移りゆく私たちの視線が変わっていくから、「名残の花」の時季の頃には、目も留まらなくなるのかな。
大地に芽吹き、長い時間をかけてようやく咲きを迎えるのに。盛んに咲く花達の一生があまりに短く切なかった。
でも、今は少し考え方が変わった。
藍生くんと出会い、本気で好きになった。
彼の幸せを願い、最後に別れたあの駅で、私に振り返ることなく去って行った藍生くんの背中は、涙で霞んだ。
好きになる気持ちがこんなにも苦しくて、痛いのならば、身も心も朽ち果ててしまえばいいのに、とずっと思ってきた。
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