一瞬 一生、凛と咲く

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4月  夢見草 ―――― “桜の別名:ゆめみぐさ。 桜の花の美しさにうっとりと見惚れた様子からついた呼び名” 今年も桜の季節がやってきた。 樹齢700年を超えるこの桜の木は、町のシンボルとして大切にされてきた。 一輪の花こそ小さく色彩も薄いけれど、個々の花を一斉に咲かせると、壮麗な景観を作り出す。 この週末、桜まつりが開催されていた為、沢山の観光客で賑わっていたが、昨日の天気とは打って変わって今日は朝から冷たい雨が降っている。 先程までは、音も立てずに降り続くだけだったのに、雨は急に激しく降り出す。 私は店先にある花鉢を激しい雨から守るように、手際よく店内に片付ける。 そして最後の一つを仕舞ったところで、空から落ちてくる雨模様を眺めた。 “ 桜流し ” ―――― そんな言葉が頭に浮かんだ。 降り続く雨量のせいで、道路の脇に出来た流れる水たまりの上を桜の花びらが流れていく。私はその行方にじっと視線を向ける。 人通りも、車の行き交う台数もない、静かな時間が流れている為、聞こえてくるのは雨音だけ。花びらは連なるように流れる。 「今日の雨で、桜も散ってしまいそうね」 そう声を掛けてきたのは、私が働く花屋の店長。
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