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「娘の入学式まで何とか咲いていて欲しかったけど、無理かな」
私の横に立ち、ため息を吐きながら空を見上げる。
店長には、あと数日で小学校に入学する可愛い一人娘がいて、カレンダーの4月7日の日付には赤いペンで印がされていた。
「本当ですね、あと少し。保って欲しいですね」
娘さんの成長の証である入学式。
真新しいランドセルを背負い、桜吹雪が舞う中、大切な一枚をファインダーに収めたいのは親ならば、誰しもが望むことだと思う。傘をさす姿よりも、ピースサインなんかをしている満面の笑みを撮りたいだろうな。
だから、余計。私もここ最近は天気予報ばかりに目が行く。生憎、今朝見てきた天気予報は明日も明後日も雨だった。
「てるてる坊主、もう一つ作ろうかな」
空から落ちてくる沢山の雨に、もう一度ため息を吐いて店長は店の奥へと下がって行く。
私はもう一度、空を覆う雨雲を見上げる。
あの涙の日から、時はゆっくりと流れた――――
あの時の心境を連想させる花と接する度に、胸が痛んだ。
彼を思い出させる花に触れる度に、涙が零れそうになった。
再び、雨に打たれる桜に視線を移す。
いっそ……私の想いも、花びらと一緒に朽ち果ててしまえばいいのに。
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