一瞬 一生、凛と咲く

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5月 “花笑み”―――  “はなえみ。花が咲くことを表す。また花が咲いたような華やかな笑顔のことを言う” 桜の時季が終わり、ヒカゲツツジの見頃も過ぎた周囲の山々は濃淡の緑色に染まる。そんな木々のコントラストは目を楽しませてくれる。 芽吹いた木や草からは生命力が感じられて、私は木漏れ日が溢れる中、並木道を歩く。 「いらっしゃいませ」 その日、店内に訪れたのは小さな可愛いお客さま。 つい先日終えた母の日の時も、こんな風に彼女位の年齢の子が何人か買いに来てくれたが、その日を10日前に終えた今、珍しいお客様の来店。 少し緊張した面持ちで、無言のまま手のひらに乗せた小銭を見せてきた。そこには50円玉が2枚と、10円玉が8枚。 「お花を買いに来てくれたのかな?」 私がそう尋ねると、またも無言のまま頷く可愛い彼女。 緊張しているからか、表情は強張り、立ち尽くしたまま言葉を発しない。私は何とか緊張を解そうと、 「一人で来たの?」「どんなお花が欲しいの?」 そんな質問をゆっくりと丁寧に聞いてみる。 私のその問いに対してもなかなか答えようとしないものの、彼女は視線だけを左右に動かして店内にある花達を観察するように眺めていた。
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