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その時、彼女の視線が止まる。数秒?いや、かなり長い時間。
私もその視線の先に釣られるように、そちらへと顔を向けると……
「もしかして、カーネーション?」
彼女がじっと見つめていたのは赤いカーネーション。私の問いに対して、今度ははっきりと頷いてくれた。
そして、自分の手のひらで包んでいたお金と、ショーケースの中で咲くカーネーションを見比べている。
「お姉さん、これで買えますか?」
不安げな表情を見せた彼女の声は小さく、お金を握る手は少し震えている。私は彼女のもう片方の手をそっと握って、ショーケースの前まで連れてきてから聞いてみた。
「聞いてもいいかな? お母さんへのプレゼントかな?」
「……うん。お風呂掃除のお駄賃を貯めていたら、母の日を過ぎちゃったの」
寂しそうにそう言った言葉。
その場に流れた空気を一変するように私は思ったことを口にする。
「偉いね。お手伝いをして貯めたお金なんだね」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに頬をほんのりピンク色に染める。
そしてショーケースを開けて、これから咲きを迎えそうな一輪を手に取って見せた。
「これなら、お家に帰ってから綺麗に咲くよ。このカーネーションが一番綺麗に咲く時を、大好きなお母さんと見ることが出来ると思う」
私が持ったそのカーネーションを、目を輝かせて魅入る。
その顔を見て、私はあることに気付いた。
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