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「ベルよ、学校に通いなさい」
「父上、それは命令ですか?」
ある春の早朝、宮殿のような荘厳な雰囲気が辺りを漂う場所でベルと呼ばれた息子と思われる人物は片膝をつきながら、金色の立派な椅子に座っている父の意外な言葉に疑問を呈していた。
今までの人生で彼は学校という物に通ったことがなかった。何故なら、通う余裕がなかったのだ。ある時は隣国の「制裁」を自分の隊百余名で食い止めたり、ある時は味方部隊の窮地を救うために敵だらけの戦場を突っ切り救出しにいったり、要は彼の生まれてからの15年間はずっと働きっぱなしだったのである。
今更通常の人間のような生活ができる訳がないことは自分はもちろんのこと、父だってわかっているはずである。
「あぁ、命令だ。お前は前から行きたがっていただろう」
「そう……ですか」
ベルは依然片膝をつきながら考える。
学校、小さい頃は自分も行きたくて仕方がなかった。暇つぶしに読む小説には必ずと言っていいほど楽しい学園生活とやらが書かれていたからだ。しかし、年を取るにつれ彼の中の欲は消えていった。正確にいえば欲が消えたのではなく、自分が強くなり他人に感謝されるのが快感に感じられるようになったのだ。だから、今更学校と言われても実感がない。
「今回ばかりは、あなたの考えわかりかねます」
これがベルの最初で父親に対する反抗だった。父もベルの意外な言葉に驚きを隠せないのか数秒唖然とした後、またいつも通りの厳格な顔に戻る。
「ふむ、簡単なことだ。常識を学んで来い。世界をひらいてこい。ほれ」
父は近くにいる部下から紙を受け取り、ベルに見せる。ベルは顔上げて父の持っている紙を凝視する。どうやら、入学書のようだ。
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