プロローグ

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電話越しなのにも関わらず、背筋を伸ばして一言一句聞き逃しがないように集中した。 「実は私の娘がどこで聞きつけたのかわからんが、私の知らないとこで勝手に事件に首を突っ込んでは、自分で推理してしまうんだ」 やれやれと言った感じで藤波が言った。 「普段は至って普通の子なんだが、事件ってなると目を輝かせるみたいなんだ」 「でも、なぜ俺なんですか?」 そうなのだ。藤波とは数回しか会っていないし、これといった接点があまりない。 「君の同僚から訊いたんだ。生島くんは優しいと」 いつ訊いたのかわからないが、藤波は聞いたことをそのまま伝えた。 「それだけじゃ、理由にはなりませんよね?」 核心はないが、言っていることは一理あると思う。 ただ優しいからと言われて、自分に白羽の矢が立つとは到底思えない。 「確かに君の言うとおりだ。私もただ優しいからと言って、選んだわけじゃない」 「じゃあ、なんで…?」 不安そうな声色で言う僕に、電話越しでも伝わったらしい。 なんか、焦らされているみたいでいやだ。 そう思っても仕方がない。 実際にそう思ったからだ。はっきり言って、焦らされるは苦手だ。
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