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これは私が子供の頃。体験したお話です。
雛祭りと聞けばたいていの人は予想がつくかもしれませんが、それは女の子のお祭りです。三月三日、生まれてきた女の子がこれからもすくすくと健康に育つように、幸福になれますようにと願うお祭りです。
一家の長女として生まれた私も同じように雛祭りの時期がやってきました。しかし、子供の頃の私は、じっとしていることが苦手な子供でした。男の子と一緒にサッカーや鬼ごっこ、泥んこ遊びが好きで、女の子ようにおままごとや、おしゃべりをして部屋で遊ぶのはあまり好まなかったのです。
雛祭りは、綺麗な着物や雛人形を飾りますのですが、着慣れないし、退屈だし、雛人形は五分くらい見ていたら飽きてしまいました。まぁ、そういった子供は私の他にも何人かいたのですが、しつけの厳しいおばあちゃんがいて、雛祭りも彼女が取り仕切っていたために文句も言えませんでした。
本来では、かく家庭で行うべき行事なのかもしれませんが時代というか、世代、さらには少子化の影響で雛祭りのやり方を知らない大人達も多かったため、数人の女の子を集めて、ひとまとめにしてしまうのです。当然、準備などに大人達も大忙しです。
ですが、子供の私には大人の事情なんて、気にしませんし、知ったことではなかったのです。大人達の隙をついて部屋を出て、あちこちぶらぶらと歩き回っていると一人の女の子と出会いました。
私と同い年くらいの女の子が、物陰からジッとこっちを見つめています。私と同じように着物ですが、彼女の着物はボロボロで薄汚れていました。ジッとこっちを見つめる視線に耐えられず、私は彼女のほうに近寄りますが、彼女は私が近寄るとスルスルと逃げていくのです。
どうして逃げるのか、わけもわからずに追いかけて見失うと、彼女がこちらを見ています。こっちこっちと手を振るいクスクスと笑っています。
そうです、彼女は私と鬼ごっこをしていました。逃げ足の速さに翻弄されながらも私はそう思いました。
悔しいと思いました。鬼ごっこなら誰にも負けない自信があったのに、ちっとも追いつけない。着慣れない着物せいもあったのでしょうが私には彼女のことしか見えていません。
それからも彼女との鬼ごっこは続きましたが、いっこうに追いつけないことに飽きてきて、私はそこで立ち止まりあたりを見渡します。
あれ、ここってどこだっけ?
私は迷っていました。
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