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「えー、そっちか?」
「そっちもどっちもない。フライパンは神の武器だ。そのフライパン様で音を出すからには"良い音"じゃないとダメなんだ」
「はぁ......」
この時、スノウの目は真っ直ぐに青年の目を捉えていた。声も真面目の一言だ。
普段は怠そうな目付きも、先ほどまでは怒りで鋭くなっていたというのに、とても清く澄んでいる。
冗談ではなく本気でフライパンを語っているのだ。
「俺はフライパンに何度も命を救われた。数えきれないくらいだ」
「はぁ......」
「フライパンは偉大であり──」
「ひぃ......」
「フライパン──」
「ふぅ......」
「フライ──」
「へぇ......」
「フラ──」
「ほぉ......」
フライパン、フライパン、と語っているうちに青年は"は行"を全て言ってしまった。
"ほ"までいくと流石にスノウの口を閉じさせた。
「むぐう! むぐむぅ!」
──強引に。
「ほら行くぞ。もう時間になっちまう」
「むぐぐぐぐぅうううぅうう!!!」
青年はスノウの口を、間違っても噛まれないように工夫しながら塞ぎ、そのまま引きずっていった。
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