第1章

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光集まるところに、また陰のあり。 いつの時代にも女性の闘いというものは氷の如く冷たく炎のように激しいものでございます。 内大臣家に姫が産まれたとの報は宮中にもすぐに届きました。 家格から将来の后がねであることは言うまでもありません。 また、内大臣の北の方といえば若い頃。 出仕していらした折りには数多の公達の心を乱したほど美しく才能豊かな女性でございました。 姫も年頃になれば美しくなられるでしょう。 射止めた内大臣様は穏やかな気性の方で、浮き名を流すこともなく実直なことで知られておりました。 実は、お歌も贈り物も苦手とされていたそうなのですが当代一の笛の名手でいらして、言葉もなく笛の音で天女を手にいれたと、まあ宴の席ではやっかみ半分にからかわれたそうです。 そのことから北の方には羽衣という愛称が付けられたのでございます。 明るく軽やかな才気にあふれ、日の光を思わせる方でしたので、内大臣様とは意外な縁だと思う向きもあったそうですが、お二人が仲睦まじくされている様子は仕える者まで幸せな気持ちになるほどでした。 大層奥方を大事にされたため、女性の間では、うっとりと物語のように語り継がれたものでございます。 恋は激しくとも、添い遂げるのは真面目な方がいい、と。 随分と虫のいい話のようですが、皆、自分には甘いのです。 内大臣家の姫は、将来どのような恋物語を紡ぐのでしょうか。 気の早い女房達は小さな柔らかい手や頬を見るたびに微笑むのでした。
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