第1話

3/23
前へ
/148ページ
次へ
県立北高等学校…称して北高の放課後は賑やかだ。 グラウンドを駆け、ボールを追うサッカー部員。 声を合わせてマラソンする柔道部員たち。 バットに球が当る音。 楽しそうにお喋りをする生徒たちに、廊下をパタパタと駆ける音。 それらの中をすり抜けて、有坂芳野(ありさかよしの)は足早に歩いていた。 昇降口で靴を履き替えようとした時、 「おーい、有坂!」 と呼ばれ、振り返った。 夕日の光が逆光になって、よく見えない。有坂は目を細めて自分の名前を呼んだ人を見つめた。 「なんだ、矢仲か」 「俺で悪かったな!…お前、歩くのはえーよ。走って追いつけないってどういうことだよ」 息を切らしながら、矢仲が愚痴る。 「あはは、悪いな。無意識だった」 「まったく、これだから運動できる奴は…!」 「関係ないだろ、それ」 有坂が笑いながら言うと、矢仲はむくれた様に頬をふくらませた。 「そんな顔してもこれっぽっちも可愛いなんて思わないぞ」 「かわいいなんて思われたくねーよ!」 昇降口に、有坂の明るい笑い声が響く。 「で、なに、どうしたの?用があるから呼んだんだろ?」 有坂が微笑みながら問う。 「あ、ああ!そうそう!お前、明日のクラス会来るだろ?」 「クラス会?」 彼は首をかしげた。 「そんなのあったっけ?」
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

175人が本棚に入れています
本棚に追加