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有坂と和泉はそれぞれオペラケーキとベイクドチーズケーキを注文した。
小振りながらもずっしりとした重みのあるそれらに、二人は思わず顔を見合わせフォークをとった。
「「いただきます」」
フォークを縦にスッと入れると、綺麗な断面図が出来上がる。
「うわ、美味しい……」
オペラを一口食べた有坂が、思わずといった風に口をおさえた。芳醇なカカオの、爽やかに鼻からぬける苦みが癖になる。
「有坂、これも食べてみて」
和泉が真剣な顔でチーズケーキをずい、と差し出す。
「いただきます」
口に入れた瞬間、チーズの濃厚な風味が波のように有坂を襲ってきた。まるでそれはチーズの大海原へ、大航海に繰り出したような……。
「待て、これ何の話だっけ」
「俺たちがグルメファイターになる話じゃないの?」
違います。
和泉も有坂のケーキを一口貰い、二人はあっと言う間に完食した。
窓の外が夕闇に染まりかけるのに気付き、会計して店を出る。もちろん、髭面の店主に挨拶も忘れない。
「美味しかったな」
「うん、また来よう」
「店長さん強面だったけど、物凄く目が優しい人だったな」
「少し話しただけでケーキへの愛が凄く伝わってきたし、とっても良い人なんだろうね」
有坂の言葉に深く頷く。
「常連になりそうだなぁ」
「行くときは俺も誘って」
「もちろん」
話しながら連れだって歩く。どんどん増えていく「次」の約束に、お腹の辺りがほわほわと温かくなった。
一方、店では。
息を潜めるようにして二人の話に耳を欹てていた常連客達が、二人が店を出てからタガが外れた様に騒ぎ出すのを店主が宥める、という状況が生まれていた。
「あの子たちまた来るかな!」
「一口目食べたあの子たちの目、見た!?超キラキラしてた。絶対あれ、チーズの大海原とか考えたから」
俺がそうだった、と遠くを見つめるのは大学生の常連客。
「常連になったら超話しかけよう……」
「……そうなってくれたら嬉しいですけど、あんまり怖がらせないでくださいね」
「絶対来るでしょ!店長のケーキは本当に美味いんだから」
周りの客たちも大きく頷く。それを見て、店主は照れ笑いを浮かべた。
二人がこの空間に溶け込む日も、そう遠くないだろう。
(作者「すぐギャグに走りたがるのを必死に軌道修正しようとすると生まれる、このカオス」)
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