第3話

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うららかな日差しが照りつける朝のホームルームで、凄まじい悲鳴が上がった。 発生源は有坂の後方の席だった。 「物理的に机に噛り付いたって何にも起きないぞ」 「寧ろばっちいからやめなさい」 あれは比喩であってだな、と呆れ顔をする橋口に矢仲は「そんくらい知ってる!」と涙目で叫んだ。 「お前、中間テスト忘れるとか滅多に無いよ」 「忘れてたんだからしょうがないだろ!!」 「幸田ちゃんの言葉に急に叫ぶとかもっと無い。お前はクラス全員の鼓膜を殺す気か」 「うう……橋口が冷たい~~極寒だよ有坂~~」 泣きついてくる矢仲の頭を有坂は適当にポンポン叩いた。 「うううう……心なしか有坂にも適当にあしらわれてる気がする~~」 ホームルームで、担任の幸田隆利教諭(数学)が口を開いたのが始まりだった。 「修学旅行の計画とか、徐々に立てていってると思うけど、お前ら忘れんなよ。…修学旅行までに定期テストが三回あるってこと。赤点取ったら向こうで再テストだからな~~まあ、皆分かってると思うけど敢えて言っておく。そのうちの一回は来週だからな~よく準備しておけよ…」 その時、例の叫びがクラス中に響き渡り、大勢の人の脳を大きく揺さぶった。 ある人はその声を「腹の底から一気に喉元へ突き上げてくるこの世のものとは到底思えない絶叫」と表し、ある人は、「メスのマンドリルが本能的に危機を感じた時に出す、これまたこの世のものとは思われぬ絶叫」と表した。 とにかく矢仲はこの世のものざらぬ声を出したと緩く認識してもらえれば事足りるだろう。 幸田先生は教壇を降りるとき、頭を押さえつつ矢仲に向かって、 「今回のテストでこのクラスの平均点が他より遥かに下回ってたら、皆の脳を揺らしたお前のせいだからな」 と言い、矢仲を震え上がらせたのだった。 ……そして今に至る。 「とにかく、数学と生物は俺が教える。国語と日本史は有坂が。英語は……まあ、なんとかなるだろう」 ザックリとそう言う橋口に有坂は苦笑し、矢仲は「英語が特にやばいのに…」と食い下がった。 「お前はどれもやばいだろ。俺たちだって自分の勉強しなきゃならんのに、それ放って教えてやるんだ、感謝しろ」 「はあい、学年十五位の橋口様すみませぇん…学年トップの有坂様、次いで橋口様宜しくお願いします~」 一言多いわ、と言って橋口は矢仲の頭を叩いた。
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