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(あ、これ・・・)
児童書のエリアに行くと、昔よく読んでいた冒険物語を見つけた。
長年置いてあったからか、それとも自分の様に何度も読んだ子供がいたからか。カバーは所々汚れ、ページは擦り切れそうな所もあった。
彼は懐かしくなって、ハードカバーをそっと撫でた。
思わず微笑が浮かぶ。少しペラペラと捲ると、そっと本棚に戻す。
歩き出そうと後ろに下がると、丁度歩いてきた人にぶつかってしまった。
「あっ!」
その人が抱えていた本がバラバラと落ちる。
「すみません!」
一緒に本を拾って、パタパタとホコリを落とし、相手に手渡す。
「ごめんなさい、お怪我はありませんか?」
と再度謝ると、相手がかすかに微笑む気配がした。
「ありがとう。大丈夫です」
薄暗くて相手の顔は見えなかったが、その人からなんとなく懐かしいような、良い香りがするのが印象に残った。
首を傾げて思い出そうとしてみたが、懐かしさの原因は到底分かりそうも無かった。
朧気な記憶は、尻尾だけをチラつかせてなかなか捕まってくれない。
最近そんな事がいやに多い。ふと窓に目をやると穏やかな光が降り注いでいた。
やはり夕立だったのか。再び降られたら堪ったものじゃないと、有坂はいつもより急って帰路につく。
ひと降りした後の道を駆け抜けると、タイヤで絡めとられて弾けた雨水が陽の光を浴びて宝石の様に煌めいた。
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