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見えたのは、白っぽい影。
小さな男の子が泣いていた。
『どうしたの?』
高校生の有坂が問いかけても、男の子は答えない。
(そうか、これ夢だっけ)
有坂は静かに男の子の横にしゃがみこんだ。
前方から、軽快な足音がする。
『×××!』
幼少期の有坂だった。
男の子が、涙に濡れた顔を上げる。
彼に、幼少期の有坂が語りかけた。
『大丈夫、僕がずっと一緒にいるから』
『…うん』
(これ、いつもとは違う場面だ…)
『行こう、×××』
ミニ有坂は、男の子の手を取って歩き出した。
(やっぱり名前は分からずじまいか…)
またもやそこで、彼の目は覚めてしまった。
有坂はむくりと起き上がると、自分がいる場所をキョロキョロと見渡し、観察した。
「保健室…?」
目の前のカーテンがシャッと開いた。
「お、目が覚めたね?」
男勝りの女性養護教諭がいた。
「あ、はい」
「なんでここに?って思ってるだろう?」
「…はい」
「矢仲と橋口が急いで運んできたんだ。矢仲なんて、俺のせいだって泣きそうだったぞ」
腰に手を当てた彼女が、ニカッと笑った。
(俺が眠る前に話してた二人か…矢仲には悪いことしたな…)
いつか、クラス会に出席してやろうと思った。…いつか。
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