天下は脳筋が支えている

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「よいか、新兵衛。うぬの身は、自分だけのものではない。この大和の国を守る為、いや、天下の太平を守るためにも、うぬは人生の全てを捧げなければならない立場にある。言っている意味は知れような?」 「そうだね。もちろん、分かっているつもりだけど」  十兵衛の言葉には重みがあった。ここ大和の国は、先祖代々守り抜いてきた土地なのだ。途中、豊臣秀吉に召し上げられたこともあったが、現在は12500石、しっかりと復領の恩顧に与っている。領民は外地の者とほとんど交わらずに栄えてきた。400年の昔から、連綿と国内で紡がれてきた命たちは、今や大きな家族とも言えるほどの絆を築いている。戦火に焼かれることも無かった木々は太く高く多く繁り、田畑には若い娘の姿も見える。そして、結束固い人々は、みな穏やかに笑っている。この少し後、柳生石舟斎に挑むべく訪れた宮本武蔵が、しきりに首をひねったという話は有名だ。「不思議な国だ」と。
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