柳の下にはやはり幽霊がいるらしい

2/4

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 慶長11年8月。徳川家康が徳川幕府を開闢してより3年後。蝉時雨もかしましい、盛夏の頃よりこの物語は始まる。  その日、大和を治める柳生藩当主の末子、柳生新兵衛輝賢(てるかた)は、城下の見廻りと称して稽古をサボり、お気に入りの茶屋でたらふく団子を食った後、無意識に鼻歌までしてしまうほどの上機嫌で、城へと向かう街道を歩いていた。元服も済ませた新兵衛の腰には二本の刀が差されている。そして、帯には〈命石(いのちいし)〉が入った袋が提げられていた。着物もそれなりに上質なものだった。ひと目で町人とは違うことが見て取れる。 「ヒメヒメ、ヒーメヒメヒメー、ヒメなのーだー♪」  新兵衛が歌っているのはアニメ「弱虫ペダル」の劇中歌「恋のヒメヒメぺったんこ」である。この時代、もちろんアニメなどは無い。そもそも電気すら普及していない。発電機が発明されるのは、まだ200年ほど先のことなのだから。それでも新兵衛がこれを歌えるのは、あるラノベ作家が「人の意思は時空を超えるという説がある。意志とは光をも超える物質なのだ」という持論を元に作品を書いていたことに由来する。今、新兵衛は無意識という曖昧な状態にいるのだから、このようなことがあってもなんら不思議では無いと言えるだろう。……無いか。じゃああれだ。新兵衛は凄い作曲的な才能があるに違いない。太鼓や三味線などしかないこの時代に、これほどの先進的な鼻歌が作れてしまうのがその証拠だ。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加