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「それにしても、どうしたものか。澄。うぬは、何故(なにゆえ)に新兵衛にとり憑いた? 離れてはくれぬのか?」
すぐに立ち直った十兵衛は、居住まいを正して正座すると、声を落として問いかけた。
「何故、と聞かれてもわかりませんけど……。あと、離れたくても離れられないみたい、なんですよねっ。てへっ」
「何? なんで?」
てへぺろとばかりに舌を出して頭をこちんと叩く澄に、新兵衛が蒼褪めた。これが本当であれば、これからは四六時中、澄と一緒にいなければならないことになる。別にやましいことなど新兵衛には無かったが、幽霊がいつも一緒ではやはり不安になって当然だ。
「分かりませんっ」
「おいっ!」
快活に絶望的な答えを寄こす澄に、新兵衛は思い切り突っ込んだ。
「さっきから、分かりませんばかりだが……。分からぬと言えば、新兵衛。うぬの〈命石〉はどうしておる?」
「うん。何も反応してないけど」
「わしのもだ。こんなことが有り得ようか? 我らの〈命石〉は、この大和を故郷と定めてこの方、一族が連綿と受け継いできたものである。そんじょそこらの〈命石〉とは、わけが違うはずなのだが……」
新兵衛と十兵衛は、二人して腰の帯より提げられた紫の袋を見遣った。
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