〈命石〉は魑魅魍魎を寄せ付けない

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「意外と飲み込みが早いな、澄。てっきり馬鹿だと思ってた」 「またそういう失礼なこと言ってぇ!」  澄がまたしても「きーっ」と怒って新兵衛をぽかぽか叩いた。それをよだれを垂らして羨ましそうに横目で見ながら、十兵衛があとを受ける。 「じゅる。そういうことだ。この国の者は、みなこの〈命石〉を持っている。この力で、大和の国は〈魔性生物(ませいせいぶつ)〉の侵攻を防いできた。だから、この国の民は幽霊も滅多に見ない。そんなものが白昼堂々往来に出てきた日には、街が大混乱することであろうな」  ぎろりと十兵衛に睨まれた新兵衛は、さっと目をそらして汗を拭った。すでに街を地獄絵図と化してきたことが十兵衛に知れるのも時間の問題だったが、お仕置きの時間は後に伸ばせるだけ伸ばしたいのが新兵衛の本音だった。  そう。京に近いここ大和では、その昔、たいそう魔性生物の被害が出ている。略して”魔物”とも呼ばれる正体不明の異形のものは、都で悪事を働いた。高名な陰陽師によって大半は鎮められたが、大和に逃げおおせた魔物も相当いた。  その時、責任を感じた陰陽師から授けられた魔除けの技術が〈命石〉。秘法により生成された〈輝石〉という淡く光る石を元に、〈命石〉を作り出す。大和の民には、これによって魔性生物を追い払ったという歴史がある。
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