石舟斎、じゃもじゃもと澄の正体を看破する

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「しんべー。このおじいちゃん、なんかじゃもじゃも言ってますっ」 「やめろよ、澄。珍しい生き物を見つけた時みたいに俺を呼ぶな。それ、俺の父上だから。今や上泉信綱様とも並び評されているほどの剣聖だから」  澄は興奮したのか、新兵衛の着物の袖をくいくいと引っ張って、目をきらきらと輝かせている。ツチノコとか見つけたら、たいていの人はこんな顔をするかも知れない。 「これ、澄。親父殿の問いに答えぬか。仕方がないやつよのぅ。ぐはははは」 「兄者……」  十兵衛はもう自分の気持ちを隠す気もないらしい。 「ごめんなさいっ。あんまりにも語尾が気になったものですからっ」 「そこ突っ込むなよ。みんな我慢してるんだから」  天然ならば許せるが、あざとく可愛さを演出するジジイなど痛すぎる。家中の意見はそれで一致していたが、老い先短い老人なのでどうにかこうにか許せている。おつうは「キモ」とはっきり言ってしまっていたのだが、それでも石舟斎は挫けず今も続けている。さすがは剣を極めた兵法者、それしきではへこたれない。どうしても許せなければ、後は殺すしかないのである。しかし、石舟斎ははっきり言って最強だった。タチの悪いジジイである。 「いいんじゃよ、澄ちゃんや。そうじゃも。もっと、もっとじゃも。もっと罵ってくれていいんじゃも――――!」 「なんか喜ばれてますよっ、しんべー!」 「もうイジるな! 事態がますます悪化する!」  この親にして、である。石舟斎も特殊な性癖を持っていた。この家で生まれ育ちながらも常識的な新兵衛は、奇跡としかいいようがない存在だった。
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