幽霊でも、一人ぼっちは寂しいらしい

2/6

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 澄は厳島神社で最高の地位を持つ巫女らしい。神職、しかも最高位を務めたほどの巫女が、幽霊として化けて出るなどということがあるだろうか? あまりにも何の変哲も無い場所で、軽く出会ったことが、更に不可解さを加速する。石舟斎にも澄の生前の職業までしか分からない。だが、これで十分だ。それは皆分かっていた。分かってはいるのだ。 「困ったのう。こういう時の頼みの綱は〈命石〉なのだが、まるで反応しないではどうにも使いようが無い。しかも元が高位の巫女とくれば、さすがの沢庵禅師でも手の施しようがあるまいな」  十兵衛は口元に箸を送りながら嘆息した。時刻はもう夜だった。この時代、人々は不定時法で動いている。日の出、日の入りを元に生活しているため、夕食も日暮れ前から採り始める家が多かった。ここ柳生家でもそうなのだが、今日は少し遅めの晩餐となっている。理由は。 「わー。いいなー。おいしそうですねー。私も食べたいですーっ」 「幽霊が意地汚いこと言うなよ、澄」  やはり澄である。澄の処遇をどうするか決めないうちは、出来るだけ家中の者にも知られないようにする必要がある。と、これは新兵衛の進言だった。十兵衛などは「構わんだろう! こんなにかわいいんだから!」と理由になっていないことを叫んでいたので、新兵衛が言うしかなくなったのだ。最初はちゃんと「許さん」と言っていた十兵衛なのに、と新兵衛は思ったが、その本当の理由を知れば、納得出来たに違いない。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加