柳の下にはやはり幽霊がいるらしい

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「……はっ。やばい。俺は今、なんて歌を歌ってたんだ? あっついから、意識がどっか飛んでたかも」  なにしろ人通りの多い街道だ。日はまだ頭の上から少し傾いたところにある。新兵衛は周りを行き交う人々から「なんかおかしいぞコイツ」的な視線を浴びていることに気づくと白昼夢から目覚めたように意識をしっかり持ち直した。照れくさいのか、頭をぽりぽりかきながら、口笛とか吹いちゃったりもしているが、それで誤魔化せるほど小さな声で歌ってはいない。 「あれ、柳生の坊ちゃんだよな」 「坊ちゃんは相変わらずのほほんとしてるなぁ」 「なによ、そこが可愛いんじゃない。坊ちゃんて結構もてるんだから」 「ねー。ちっちゃいし細いし頼りないし。守りたくなっちゃうわー」  以上は街の声である。柳生家の末っ子である新兵衛は、皆に若様ではなく坊ちゃんと呼ばれることが多かった。将軍家兵法指南役にまで採り上げられた剣法一家の血筋とは思えない新兵衛の優しい風貌は、町民の、特に女子への受けが大層いい。だが攻めなどいない。そういう腐った目で少年を見る女子は、幸いここにはいなかった。紫式部の毒牙は、まだここには及んでいない。それでもショタコンはいたようだ。新兵衛の小さな頃など、一人で街に出れば良く町娘に連れ去られたりしていたくらいなのだから。まぁ、結局は一緒に団子を食べるくらいで無事に帰ってくるから、誰も問題にはしなかったが。それでも城主の子息としては放任に過ぎる扱いだった。新兵衛ののんびりとした性格は、この頃に育まれてきたのだろう。  そんな新兵衛も現在は15歳。さすがにもう攫われることはない。そろそろ、身の立て方を考えなければならない時期だった。
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