幽霊でも、一人ぼっちは寂しいらしい

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「それにしても私、大名家の人々はいつもお城の天守とかにどっかり座って贅を尽くした四季折々の海鮮旬菜美味珍味を味わいつつ、横に座らせた愛人といやらしいことをしながら城下を見下ろして人がゴミのようだとか叫んでいるんだとばかり思っていましたけど、新兵衛たちの夕食って随分と質素で地味で少なくて、彩りとかも地味ですねっ。ただ、匂いだけは美味しそうな気がしますっ」 「凄い先入観持ってんな、澄……」 「ふん。そんな阿呆大名を見つけたら、わしが真っ先に斬り捨ててくれるわ。領主が贅沢三昧などしていては、領民への示しがつかぬ」  確かに、柳生家の食卓は地味だった。今夜は少し特別だったせいもある。新兵衛と十兵衛は、後事の策を練るために、いまだ奥の院の仏間にいるのだ。澄が見つからないように、食事も新兵衛が台所にまで取りに行き、今、こうして黙々と食している。門番の者にはしっかりと口止めしてあったので、これさえ気をつければ事が露見することはない。今は、まだ。  仏間の燭台には火が灯され、煌々と仏像を照らしている。炎の赤と仏像の金色が混ざり合った光は、独特の厳粛さを醸し出す。新兵衛と十兵衛はそんな中、向かい合って食膳についている。今夜の献立は、前菜が小松菜の和物、メインが岩魚の塩焼き一尾、汁物がわかめのみのお吸い物、デザートに胡桃が一つ添えられたものである。それらでご飯を掻き込むだけだ。地味。 「へぇ。じゃあ、あれはどうするんですかっ」 「あれ? あれって何?」 「ぬ?」
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