幽霊でも、一人ぼっちは寂しいらしい

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 澄が指差す先には、実用性重視の無骨な山城、柳生城の天守楼から身を乗り出し、「見よ、おつう! 人がゴミのようじゃじゃも――!」と叫んでいる石舟斎がいた。横では肩を抱かれたおつうが「ゴミはてめぇだ――!」と怒鳴っている。新兵衛と十兵衛はしばしそんな様子を見ていたが、食膳に戻ると呟いた。 「「あいつ、斬れないんだよなぁ……」」  十兵衛と新兵衛が残念そうに項垂れた。 「そういや澄。お前、帰るとことかあるの?」  気を取り直した新兵衛は、岩魚の骨をきれいに抜き取り澄に尋ねた。 「え? さぁ? どうしてそんなこと聞くんです? 私、幽霊なんですけどっ」  澄が不可解そうに小首を傾げた。澄には自分が幽霊であるという自覚がかなりある。新兵衛だって、それは理解しているはずだと澄は思っていた。普通、幽霊には家など無い。勝手に住み着いているか、元々の家にそのままいるか、あるいは心残りとなっている場所に縛られるか。幽霊の居場所など、相場はそんなところだろう。 「うん。一応、聞いておこうと思ってさ。もしも帰る場所があったなら、俺と離れられないのはまずいだろ?」 「新兵衛……」  ずず、と汁をすする新兵衛に、澄は驚いた表情を向けていた。自分は、幽霊なのだ。人に疎まれこそするものの、気を使われることなどない。それは街道の人々の反応から、澄はちゃんと分かっていた。だからこそ。 「……優しいですねっ、新兵衛はっ……」  澄は困ったように笑っていた。
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