”業刹”、新兵衛と澄に接触す

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 夜もとっぷりと更けた頃、新兵衛は澄を伴い城の寝室へ戻っていた。柳生城は小さな城だ。砦と呼んだ方がしっくりくる。そのため、新兵衛も普段は城の敷地内にある館で寝起きしているのだが、今日は澄がいるため戻れない。城の寝室は有事の際に使われる。他にも何室かあるが、それらはみな城の詰番が使っていた。それでも館よりは人目につく心配が少ないのだ。  澄が現れてくれたおかげで、稽古をサボったことなど誰にも咎められずに済んだ。新兵衛は「ま、その点では良かったかもな」とほくそ笑んだ。 「しかし」 「ほえ? なんですかっ、しんべー?」  いざ眠ろうとして困ったことに気がついた。滅多に使うことのない城の寝室には、布団がひと組しか用意されていないのだ。しかし、すぐに思いつく。 「澄。お前、眠ったりするの?」  澄が睡眠を必要としないなら、その辺で座ってもらっていればいい。これなら何も問題ない。そもそも睡眠とは生者の営みだ。幽霊が必要とするとは思えない。だが。
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