”業刹”、新兵衛と澄に接触す

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「さぁ? 私、今までどうしていたのかもさっぱりなのでっ。でも、しんべーが眠るなら私も寝たいと思いますっ」 「いや、無理に寝なくてもいいんだぞ?」 「いえいえ、無理なんかじゃありませんっ。私、やれば出来る子なんですよっ」 「自分で言うなよ」  澄は、眠れないのは悔しいらしい。新兵衛に張り合うような様子は、まるで子供のようだった。 「では、おやすみなさいですっ」  澄が布団に潜り込んだ。意外なことに、布団はちゃんと盛り上がる。 「いや、ちょっと待て。なんで布団に入るんだ?」 「え? 眠るんですから、布団に入るのは当然ですっ」 「知ってるけど。そういうことじゃなくてだな。布団、ひと組しかないんだが」 「私だって知ってますっ。しんべーは、またそうやって馬鹿にしてっ」 「馬鹿にしてるわけじゃないけど。だから、俺が言いたいのは、お前がその布団で眠ったら、俺はどこで寝るんだよ?」 「この布団、結構大きいじゃないですかっ」 「だから何?」 「ふふん。意外と頭の回転が遅いですねっ、新兵衛は。ふっふーんですっ」 「なんかムカつくな、お前。だから何って聞いたのは、自分が何言ってんのか分かってんのかって意味なんだが。兄者かお前は」  そう、分からないはずがない。澄は掛布団をめくり上げ、新兵衛に来い来いと手招きしているのだから。新兵衛もお年頃の男子である。相手が幽霊とは言え、やはり結婚もしていない男女が同じ床につくということには抵抗があった。童貞乙。
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