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「ふっふーん。期待してないですねぇ、しんべー? 甘い。甘いのですっ。私のお話を聞いたなら、もうやめられなくなるのですっ。続きは? 続きは? って飢えた獣のようにはぁはぁと呼吸を乱し、先を促すようになるのですっ。それを書き留めた新兵衛の本は売れに売れ、ついには文壇界の巨匠と呼ばれることに」
「それ、話始まってんの? 俺が主人公なの、その話?」
「そうです。あれは15年前。新兵衛が生まれた時のお話ですっ」
「いきなり遡ったな。なんで今日初めて出会ったお前が、俺のことを語るんだよ」
「しっ。黙って聞くのですっ。これはしんべーも知らなかった、恐ろしい出生に関わるお話ですっ」
「人の出生を勝手に禍々しい感じにしてんじゃねぇ」
「あれは、昔むかしのことなのですっ」
「ベタな始まり方してるけど」
「その日、おじいさんは山へシバかれに」
「何やったんだよ、俺のじいさん! 誰がシバこうとしてんだよ!」
「おばあさんは、川へ命の選択に」
「こええよ、俺のばあさん! 誰の命を奪おうとしてんだよ!」
「その時、川の上流から、新兵衛が流れて来たのです。『がはっ。げへへ』と」
「むき出しで流れてんのかよ! 絶対死ぬだろ、新生児が川で流されてちゃ!」
「その時、おばあさんに選択された人間が、川に逃れて新兵衛を」
「俺を助けた人、おばあさんに殺されるとこだったのかよ! 誰に感謝したらいいのか複雑だなそれ!」
「もー。どうして黙って聞けないのですかっ、しんべーはっ?」
「黙ってられるか! そんな生い立ちイヤ過ぎるだろフツー!」
「ぶはぁ――――! ぶほ、ぶほっ!」
「え?」
その時、どこかからむせる声がした。噴き出すのをずっと堪えていたような、そんな感じの咳き込み方だ。
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