”業刹”、新兵衛と澄に接触す

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「誰だっ!」  新兵衛の枕元に置いていた〈命石〉が真っ赤な光を放っている。その光は袋までも突き抜けて、部屋の全てを等しく赤く染めていた。 「魔性生物? まさか!」  新兵衛が布団を跳ね上げ立ち上がった。 「……ぶは、ぶは。……ふぅ」  煌々と差す月光が、部屋の障子に廊下に立つ人影を映している。その人影には、明らかにおかしいところがあった。人間の影ながら、頭からは二本の角があるらしいことが見て取れたのだ。人影は障子をゆっくりと引き開けると、その全貌を現した。 「……相変わらず馬鹿な話をしているな、澄」 「何?」 「私を、知っているのですっ?」  真っ赤な羽織に朱鞘の刀。それは、山から柳生城を見ていた男で間違いなかった。 「ああ、そうだとも。俺の名は業刹(ごうせつ)。人間どもが、”魔性生物”と呼ぶ者だ」  業刹は斜に構え、その赤い瞳で新兵衛をぎろりと睨んだ。 「……業刹、か。信じられない。まさか、魔性生物が大和の最奥、この柳生城にまで侵入してくるなんて、な」  新兵衛の頬を汗がつつ、と伝っていった。 「でも……」  と澄が呟いた。 「業刹さん、でしたっけっ? そういう緊迫したセリフは、笑いすぎた涙の跡が乾いてからにした方がいいのですっ」 「何? あ、うああああ!」  澄に指摘された業刹は、慌ててごしごしと目尻を拭った。
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