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「俺の名は業刹(ごうせつ)。人間どもが、”魔性生物”と呼ぶ者だ」
寝室の障子を引き開けて、業刹が新兵衛たちの前に現れた。赤い瞳がぎらりと光る。
「やり直すんだ」
「さっきのは無かったことにする気ですっ」
「なかなか思い切ったことをするやつだ。俺なら恥ずかしくて出来ないけど」
「私だって、あんな真似は出来ませんっ。業刹さん……。恐るべき魔性生物さんですっ」
澄に恥ずかしい指摘をされた業刹は、一旦寝室から退却すると、また何事もなかったかのように戻ってきていた。ここで撤退しない辺り、かなりの胆力であると褒めねばならない。さすがは魔性生物である。目的の為には、恥も外聞も捨てされる潔さが備わっているのだろう。ただの恥知らずなのかも知れないが。
「俺はそこの澄を知っている。いいか、人間よ。澄の為を思うのであれば、」
「俺たちの話も聞こえていないふりで通すつもりだぞ」
「凄いですっ。こんなに心の強い人、私、見たことないかもですっ。記憶が無いので多分ですけどっ」
「黙れ。俺は大事な話をしているのだ。貴様等、少ししつこいぞ」
業刹の精悍な顔に朱がさした。そろそろ耐え切れなくなっている。業刹は、魔性生物の中でもかなり上位にあるのだが、そんな剛の者でも、これだけ言われれば参るのだ。新兵衛と澄の突っ込みコンボ、恐るべしである。
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