業刹、登場シーンをリテイクす

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「ああ、悪かったよ。確かに少ししつこかったかも知れないな」 「……貴様、人間の割には結構いいやつなんだな」  新兵衛から殊勝に頭を下げられた業刹は、ちょっと感激しているようだ。そんな業刹に、新兵衛は内心ちょろいと思っていた。怒り出した機先を制して敵意を削る。新兵衛の計算通りである。あれだけ辱められておきながら、侘びの一つであっさり心を開いてしまう業刹も、かなりの人、というか、魔性生物の良さである。澄は新兵衛の後ろに隠れて「まだ物足りないですぅ」とか言っているが。 「で、魔性生物が何用だ? 澄のことを知っているようだけど」 「ふ。よくぞ聞いてくれました」 「なんか意外と軽いですっ。ふざけて話されても困るのですっ」 「お前に言われたくはない」 「ああ。確かに」 「ちょ! しんべー! 新兵衛はどっちの味方なのですかっ!」 「いや、味方も何もないだろう? そんなの、業刹の話を聞いてからじゃないと決められないし」 「……ほう。貴様、変わった考え方をするやつだ。もう長いこと生きているが、貴様のような人間は珍しい」  業刹は心の底から感嘆していた。普通の人間なら、魔性生物など頭から悪い者だと決め付ける。その理由は業刹にも理解出来ている。たいていの魔性生物は、容姿が醜悪、または凶悪なのだから。人間はひと目見ただけで拒絶反応を起こしてしまう。それは、本能的に呼び覚まされる”恐怖”ゆえ。戦いでは人間よりも圧倒的に強い魔性生物たちだ。人はそれを本能で感知して恐れるのだ。それは、澄に対する反応と、ほぼ同じだ。
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