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「そうなのか? 俺はこの国を出たことがないから、他所の国の人々が、お前たち魔性生物にどんな対応を取るのか知らない。だからなのかも知れないな」
「ふ。国など関係ないのだが」
業刹は新兵衛の説明を一笑に付した。まるで見当違いな答えだからだ。人の感性など、国が違うくらいでそうそう乖離するものではない。それが命に関わることなら尚更だ。
「ま、いざとなれば、俺にはこの〈命石〉があることだし。どんな魔性生物が相手でも、これさえあればなんとかなるさ」
新兵衛は手に持った命石の袋を高く掲げた。命石の光は強く輝きを放ったままだ。
「ふむ。確かにかなりのものではある。が」
「なにっ?」
「しんべー!」
一瞬で新兵衛の懐に飛び込んだ業刹が、命石の袋を掴み、奪い去った。目にも止まらぬ早業だ。新兵衛は、完全に業刹を見失ってしまっていた。
「そんな馬鹿な! 有り得ない……、魔性生物が、命石を手にするなんて!」
新兵衛が驚きのあまり後ずさった。新兵衛の言うとおり、これは有り得ない事態だった。命石とは、魔を”拒絶する”存在だ。時には人に魔の在り処を示し、時に護りの盾となり、時には討ち滅ぼす剣となる。大人しく魔性生物の手に収まることなどあるはずの無いものなのだ。それでも、もし手にしたなら、その魔性生物は一瞬で灰になることだろう。
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