助けたいという我儘

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「そう驚くな。俺は、少し特殊でな。今宵は戦いに来たわけでもない」 「う?」  業刹は奪った命石を新兵衛に向けて放り投げた。ゆるやかな放物線を描き、命石が新兵衛の手元に戻った。呆然と口を開けた新兵衛と澄に、業刹は自分の目的を打ち明けた。 「他でもない。澄を俺に預けてくれ」 「えっ?」  澄がきょとんと業刹を見つめた。 「……何のために?」  新兵衛が声を落として聞き返した。ぎゅっと小さな拳を握った澄の喉が、ごくりと鳴った。 「……それは、澄を……」  業刹の表情が悲しげに歪んだ。 「澄、を?」  新兵衛が身構えてさらに尋ねる。新兵衛は素早く目を配らせて、刀の位置を確認した。刀は枕元に置いてある。 「澄を! この世から消し去る為に!」  意を決した業刹が、力強く言い放った。 「逃げろ、澄!」 「ふぇ? ふえぇっ?」  直後、新兵衛が刀を手に取り腰に引き寄せた。左手で鞘を持ち、右手は柄をすぐ握れる位置に置く、いつでも抜ける体勢だ。澄の大好きな優しくてユルい新兵衛はいなくなり、柳生家の”剣士”としての新兵衛がそこにいた。澄は初めて見せる新兵衛の戦う姿勢に戸惑うばかり。新兵衛は業刹をきっと見据えた。
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