二人の旅立ち

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    *    *    * 「それにしても、業刹さん。どうして私たちを殺さなかったんでしょうねっ?」 「さぁな。そもそも、殺そうとする理由も良く分からなかったしな。でも、こうして俺も澄も生きている。あ、お前はもう死んでたっけ。こう考えると変だよな。もう死んでるやつを守ろうとするとか、自分で何やってんのか分からない」  二人は茶屋で団子を食べていた。いや、食べているのは新兵衛だけだ。澄はうまそうに団子を頬張る新兵衛を、うらめしそうに見つめていた。ここはまだ柳生の城下町。休憩を取るのが早すぎる。旅の行く末が案じられるペース配分なのだが、元来おっとりとした性格の新兵衛は、そんなことは気にしない。 「そう言われればそうですねぇ。本当に、新兵衛は何やってんだか意味不明って感じですっ。大体、逃げろと言われたって、私は新兵衛から離れられなかったんですよ? それに、新兵衛は業刹さんに敵わなかったじゃないですかっ。新兵衛が斬られたあと、私も斬られて終わりですっ。そう考えると、本当に無意味なことしてましたよねっ。新兵衛、頭悪いんじゃないですかっ?」 「おい。お前、そのへんでやめとけよ。本当のことだからって、ずばずば言っていいわけじゃないんだぞ。言っとくけど、俺だってそんな事には気づいてた。だから、逃げ道があったら逃げてたけど、あいつ、部屋の入り口を塞いでいやがったからな。どうにもならないとか思ったら、ついあんな行動に出ていたわけだけど……。うああ。今思い出すと恥ずかしいー!」 「えっへっへー。新兵衛、赤くなってますっ。かーわいーのですーっ」 「こらっ。俺の頭を撫でるんじゃない。お前、ホント腹立つな」  耳まで真っ赤になった新兵衛は、澄の手を自分の頭からしっしっと振り払った。しかし、通り抜けてしまうため、その手は虚しく空を切る。頭には、澄の手の感触が朧にあるのにだ。新兵衛は「不公平だ」と膨れていた。
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