二人の旅立ち

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「あ、あのう。その幽霊さん、あんまり怖くないのですか、坊ちゃん?」  柱の影から茶屋の娘がおずおずと尋ねてきた。早朝から、たいした働き者である。ブラック企業で働く者は、もうすでにここにいる。 「見れば分かるだろ、おかつ? こいつが怖いものに見えるのか? ただの阿呆だぞ、こんなやつ」  新兵衛は団子を口に放り込んだ。 「あー! 阿呆って言ったーっ! 阿呆って言う方が阿呆なんですよーっ!」 「ガキかお前は。そんな返し方しか出来ないのが、やっぱり阿呆の証拠だろ?」 「くきーっ!」 「おわっ! だから、叩くなって、澄! 団子が落ちちまうだろぉ!」  団子好きな新兵衛にとって、それは悲しい事態だ。新兵衛は、国を出る前にどうしてもここの団子を食べて行きたかったということだ。毎日のように(稽古をさぼってまで)食べに来ていた茶屋である。年が近いこともあり、このおかつという娘とは仲が良い。幼馴染み身分差バージョンが新兵衛にとってのおかつである。看板娘のおかつに、領主の息子。そんな二人を微笑ましく、あるいは自分の夢を重ね見ていた者もたくさんいた。
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