幼女とじじいと侍が、龍に追われて現れた

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 この時代、旅人は一日に八里ほど、30km以上も歩いたというのだから驚きだ。一般道であれば、車でも1時間はかかる距離である。日の長い夏であれば、さらに歩を進められたことだろう。今のようにスニーカーなどという足に優しいものも無かったわけだから、呆れるほどの健脚だ。現代の若者など、信号待ちですら耐え切れずに地面に座ったりもする。スカートはいてる女子学生でも座っている。するとちょっと見えたりする。いいぞもっとやれである。こう考えると昔の人は損している。今っていいね。  さて、新兵衛はどうかというと、 「疲れた。だるい。もう帰っていいかな、俺?」 「えええ! まだ最初の関にも着いてませんよっ! 今日の宿ってそこで取る予定じゃなかったでしたっけ? もっと頑張らないと、日暮れまでに着けませんよっ! 野宿することになっちゃいますよっ!」  もう心が折れていた。普段、新兵衛が歩く距離など茶屋との往復ぐらいである。いきなり厳島まで行こうなど、旅を舐めているとしか思えない愚挙だった。
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