秋葉原は、どの世界線にも存在する

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 多くのものが、白昼堂々幽霊に取り憑かれるとは思うまい。新兵衛は幽霊少女、澄の奇策に見事にはまったことになる。当の澄にその意図があったのかどうかは分からないが、これは兵法家として由々しき事態だった。新兵衛は家名に泥を塗らないためにも、澄に取り憑かれた事実を隠匿しなければならないのだ。が。 「お前、幽霊なら姿を消したり出来ないか?」 「さぁ? やったことないので分かりませんっ」  では、澄は今までどこにいたのだろう? 新兵衛とて、木の上に人らしき影があればさすがに気付く。疑問には思ったが、今はさしあたってすぐにやらなければならない事がある。「ちょっとやってみてくれないかな? このままじゃ」と、新兵衛が言いかけた時だった。 「うおわっ! 人が宙に浮いてるぞ!」 「つーか、透けてんじゃねぇかよ!」 「あれって柳生の坊ちゃんじゃん! 何を普通に話してるんだ!」 「きゃあぁぁぁ! お、お化けぇー!」  街道は阿鼻叫喚に包まれた。旅人は荷物を抱えて慌てて逃げた。腰を抜かす者、逃げ出そうとして転ぶ者、悲鳴を上げて気絶する者。道沿いの民家に土足で上がり込んで隠れる者。不思議な呪文を唱える者。不気味な踊りを踊る者。〈そうび〉する事を忘れていたと気付いて慌てる者。「いよいよ、俺の因果がうずきだしてきやがった」と意味不明な事を呟いて、なぜか右腕を押さえる厨二の者。「空飛ぶ白装束美少女キタコレ――!」と叫んではぁはぁと喘ぐ者。その反応は様々だ。驚き方のバリエーションとはこんなにあるものなのか、と新兵衛が思わず感心するほどだ。
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