幼女とじじいと侍が、龍に追われて現れた

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 最初の関といえば、お隣の郡山藩である。豊臣政権下では柳生の郷まで増田長盛(ましたながもり)が領していたが、関ヶ原の戦で西軍に属していたことにより召し上げられ、今は公儀御料地となっている。しかし、増田長盛は領地を没収されたものの、三河武士らしい正直さで有名な徳川の忠臣、高力清長(こうりききよなが)の懇願により助けられ、その一命を取り留めた。出家した今は、高野山にて身柄を保護されている。  増田長盛。豊臣政権五奉行の一人。石田三成とともに稚拙で杜撰な徳川打倒を画策した――”豊臣政権を滅ぼした男の一人”である―― 「そうか。じゃあ、野宿もやむ無しだな」  新兵衛は道の脇にある手頃な石に腰掛けた。ここは柳生と郡山を結ぶ峠道の半ばである。夜になれば犬やら猫やら狼やら、熊やら鹿やら質の悪い雲助やら夜鷹やら露出狂やらまで出没する。無論、魔性生物とてどこに潜んでいるか分からない。山とは危険がいっぱい夢いっぱいな場所なのだ。新兵衛の判断は、旅慣れた者なら「あんたバカぁ?」と言ってしまうようなものだった。
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