幼女とじじいと侍が、龍に追われて現れた

5/5
前へ
/91ページ
次へ
「なんか、怒ってない?」 「ですねぇ。怒鳴り声、みたいな」  地響きは地鳴りへと変わった。声ははっきりと怒鳴っている。何を言っているのかは分からないが、かなり怒っていたり急いでいたり恐怖していたりしているようだ。そして、その正体が猛スピードで峠を下って現れた。 「にぎゃあああああああ――――!」    叫んでいる。幼女が。 「ばあさ――――んっ! どこだ、ばあさぁ――――んっ!」  探している。じじいが。 「姫! お戻りくだされ、姫――――!」  怒鳴っている。若い侍が。 「ギュオオオオオオオオオオオオオ!」  口から火を吹いている。龍が。 「ちょっと待てぇ――――!」 「幼女とじじいと侍と龍が一団となって来ているのですっ! 幼女とじじいと侍はともかく、最後のは何ですか――――っ!?」 「いや、驚くのはそこじゃないぞ、澄!」 「えっ? 他のどこに驚けと言うのですっ?」 「そんなもん決まってる。じじいだ! あのじじい、なんであんなに速く走れるんだよ! 見るからに死にそうなじじいのくせに!」 「やっぱり新兵衛っておかしいですっ!」  説明しよう。最後に出てきた龍は、魔性生物の一種である。魔性生物には業刹のような人型で知性の高い種は数少ない。たいていは今現れた龍のように、人とも動物ともかけ離れた姿をしているものなのだ。そして、龍とは、その数ある魔性生物種の中でも、ほぼ頂点に君臨する”最強種”だった。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加