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「なんか、怒ってない?」
「ですねぇ。怒鳴り声、みたいな」
地響きは地鳴りへと変わった。声ははっきりと怒鳴っている。何を言っているのかは分からないが、かなり怒っていたり急いでいたり恐怖していたりしているようだ。そして、その正体が猛スピードで峠を下って現れた。
「にぎゃあああああああ――――!」
叫んでいる。幼女が。
「ばあさ――――んっ! どこだ、ばあさぁ――――んっ!」
探している。じじいが。
「姫! お戻りくだされ、姫――――!」
怒鳴っている。若い侍が。
「ギュオオオオオオオオオオオオオ!」
口から火を吹いている。龍が。
「ちょっと待てぇ――――!」
「幼女とじじいと侍と龍が一団となって来ているのですっ! 幼女とじじいと侍はともかく、最後のは何ですか――――っ!?」
「いや、驚くのはそこじゃないぞ、澄!」
「えっ? 他のどこに驚けと言うのですっ?」
「そんなもん決まってる。じじいだ! あのじじい、なんであんなに速く走れるんだよ! 見るからに死にそうなじじいのくせに!」
「やっぱり新兵衛っておかしいですっ!」
説明しよう。最後に出てきた龍は、魔性生物の一種である。魔性生物には業刹のような人型で知性の高い種は数少ない。たいていは今現れた龍のように、人とも動物ともかけ離れた姿をしているものなのだ。そして、龍とは、その数ある魔性生物種の中でも、ほぼ頂点に君臨する”最強種”だった。
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