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「にぎゃああああ! あ! これ、そこの貧乏侍! うちを、うちを守るのじゃ! あの龍を成敗せよ! 早く、早くするのじゃぁぁぁぁぁ!」
「ばあさぁぁぁぁぁん! どこにおるんじゃ、ばあさぁぁぁぁぁぁんっ!」
「姫ーっ! お待ちを! しばしお待ちをーっ! そこの者、すまんが姫を取り押さえてくれまいか!」
「ギュオオオオオオオオオ!」
新兵衛は土煙を巻き上げて迫り来る集団に「は? 同時に話しかけられても聞き取れん」と耳に手を当てて主張した。腰の〈命石〉は業刹に反応した時と同じくらいに光っている。だが、今度の光は青かった。澄はそんな新兵衛に「ムカつきますっ。こんな人がいたらムカつきますっ」と震えていた。
「うるさいなぁ。いいんだよ、ほっといても。少なくとも、龍に関しては問題ない。姫とじじいと侍がなんなのかは分からんが、まぁ、別に刃傷沙汰にはならないだろ」
「え? どうしてそんなことが分かるんですっ?」
新兵衛がすいっと道脇の岩陰に身を潜めた。澄は新兵衛の頭の上に浮かび、迫り来る集団を凝視している。ずどどどどどと峠を駆け下りてくる集団は、新兵衛の脇を通り過ぎようとした。その時。
「にぎゃああああ! たふたふたふ、たふけてなのじゃあっ!」
「なにっ?」
「あ」
岩陰の新兵衛に、姫が90度ターンをしてしがみついた。拍子に懐の団子が飛び出した。新兵衛は自由の利く左腕を慌てて伸ばし、団子をキャッチしようと試みる。
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