星姫登場

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「え? どういうことですかっ、しんべー? この龍さん、知っているのです?」 「ん? ああ、こいつはここらじゃ有名なんだ。柳生と郡山の狭間に、大昔から住む峠龍。いつ名付けられたかは知らないが、〈翠玉龍(すいぎょくりゅう)〉って呼ばれてる。優しくて気のいいやつだって話は父上から聞いていたんだが、なにしろ姿がこれだろう? だから、普段は滅多に人前に出ないようにしてくれているらしい。実際見たのは初めてだけど、ま、命石が青く光ってたから、多分こいつだろうと思ってな」  新兵衛は翠玉龍を下から睨みつけている。いい龍だと分かっていても、団子がダメになった怒りは収まらない。 「うにゃああ。う、嘘じゃ。嘘なのじゃあ。そやつ、うちにいきなり襲いかかってきたのじゃあ。うちがあんまりにも可愛いから、きっと食べようとしたに違いないのじゃ。恐ろしい龍なのじゃあ。にゃあああ」 「おお、お可哀想に、姫様。ささ、拙者の腕に包まれればもう安心でございます。拙者がしかとお守り差し上げますからねはぁはぁ」 「ぎにゃあああ。そちもじゃ阿呆。うちに触るななのじゃあ」  幼女の姫がずりずりと地面を這って新兵衛へと手を伸ばした。年の頃は12才前後だろう。顔は子供相応に愛らしい。だが、この時代ではすでに結婚していることもある年齢だ。きれいな吹輪型に結われた前髪と髷(まげ)には、きらきらと光る金で、三つの星を象った姫挿し(髪飾り:その名のとおり姫が使うもの)が飾られている。この暑いのに桃色の長い打掛を羽織っているところを見ると、かなりの洒落っ子か見栄っ張りなのだろう。  そんな姫の腰には、若い侍がしがみついてはぁはぁ息を吐いている。どこかの姫とそのお付の侍だろうことは分かったが、一見しただけでも少し普通ではない……どころか、異常な関係だと新兵衛は思った。
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