新兵衛、ギャップ萌えを経験す

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「ほれ、翠玉。手に持ってるもん、俺に寄越してくれ。それ、多分このちびっ子姫のものなんだろ?」 「手に持ってる物っ? 龍に手なんてっ……、あ。ありますっ。首からずっと下の方に、ちっちゃいお手てがあるのですっ。ちょこんと付いててかわいいのですっ」 「ギュオオ」  見ればなるほど、翠玉の長い胴には、とかげのような細い手足が付いている。右の手の鋭い爪が、桐箱を縛った紐を引っ掛けてぶら下げていた。翠玉はこの桐箱を星姫に渡したかっただけなのだ。星姫はそれに気づかず翠玉の恐ろしい姿を見て逃げ出した。その結果が今だった。頷いた翠玉は、新兵衛に言われるまま、桐の箱を差し出した。 「ふぅん。金の毛利家家紋付きか。かなり立派な桐箱だな。名のある職人の手によるものか。ほれ、チビ。何が入っているのか知らないけど、大事な物なんだろ? 手元に戻って良かったな。翠玉に礼を言っとけよ」  作りの良い桐箱は、防虫防湿に優れている。軽くて密閉性が高い為、水からも中身はしっかり守ってくれる。柔らかいのが弱点だが、丁寧に扱えば問題ない。そのため、高価な着物などを収納するのに重宝された。むろん、桐箱自体も相当高いものだった。それは現代においても同じである。
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