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「ふにゅ? そ、そうなのじゃあ。それは、うちにとっては、大事な、大事な物、なのじゃ……」
体を起こして地面に座った星姫は、桐箱を新兵衛から受け取ると胸に抱き、安心したような笑顔を見せた。柔らかい微笑みだった。気品ある笑顔だった。生まれ育った環境のせいなのか、光と影の混在する、不思議な微笑みを湛(たた)えていた。
「う」
不意に見せられた笑顔で、新兵衛は若干動揺した。第一印象が悪ければ悪いほど、こうしたギャップは大きくなる。新兵衛は今、まさに人生初のギャップ萌えを体験しているところなのだ。萌え。
「わぁっ。このお姫様、やっぱりかーわいいのですーっ」
澄などはイチコロだった。素直に感情を表す澄は、新兵衛と違って思ったことを口に出す。
「そうであろう、そうであろう。其処許らにも、分かるであろう。星姫の可愛さ可憐さ愛おしさが。愛いのだ愛いのだ。拙者、星姫が愛いて愛いてたまらぬのだ。もう生きているのが辛いほどに愛いのだぁ!」
「にぎゃあ。触るななのじゃあ。カメ、そちは何度言ったらうちに抱きつくのをやめるのじゃあ。むぎゅううう」
「へ、へぇ。そうなんだ……」
「……なんかこの人、怖いですっ」
じたばたともがいて嫌がる星姫を、若い侍は無理やり懐にかき抱いて激しく頬ずりしている。その様を、新兵衛と澄は白目で見ていた。
「ばあさん……」
「ギュオオ……」
その横で、じじいが力なく項垂れた。
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